名古屋高等裁判所 昭和28年(ネ)143号 判決
控訴人は原決判中控訴人勝訴の部分を除き其の余を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人が被控訴人主張の本件不動産(原判決添付目録記載の不動産)は控訴人の所有なりと主張し、被控訴人を相手方とし、津地方裁判所に昭和二十一年八月二十六日右不動産中宅地建物に付き、同年九月十二日同山林に付き夫々之が所有権移転、質権並抵当権の設定、取毀其の他一切の処分行為を為すべからずとの仮処分を申請し、其の頃同趣旨の仮処分決定を受け之が執行を為し、次で同年九月二十六日右不動産所有権移転登記請求の本案訴訟を同裁判所に提起し、右事件は同年(ワ)第四八号事件として審理せられ、昭和二十二年三月十二日控訴人敗訴の判決あり、右判決に対し控訴人は名古屋高等裁判所に控訴したが(昭和二二年(ネ)第十号事件)、昭和二十二年十月八日控訴棄却の判決あり、右判決に対し控訴人は最高裁判所に上告したが(昭和二二年(オ)第二七号事件)、昭和二十三年二月二十七日上告棄却の判決があつたことは当事者間に争がない、控訴人は右第一審判決には民事訴訟法第四百二十条第一項第四号第五号に該当する再審事由があると主張するが、之を認むべき証拠はない、そして成立に争なき甲第一号証ノ一、二原審に於ける証人山本正基の証言、控訴本人訊問の結果を綜合すれば、控訴人の三男である訴外上野誠一は訴外上野倉吉の養子となり、倉吉死亡により同人の家督を相続した結果、本件不動産の所有者となつたものであるが、終戦後台湾から引揚げて来て生活上の資金に窮した結果、昭和二十一年八月五日、本件不動産を代金一万五千円で被控訴人に売渡し、同月七日其の所有権移転登記を完了したこと、控訴人は本件不動産を被控訴人に安価に買取られては、当時之に居住していた誠一の妻子等が気の毒だと思い、右妻子等の為めに本件不動産を買戻してやろうとし、自己の二男、訴外上野秀雄をして被控訴人の夫山本正基に対し、本件不動産を控訴人に売戻してくれるよう同年八月中旬に交渉せしめたところ、山本正基は売戻すことを承諾しなかつたこと、右売戻の拒絶は明白であつて其の諾否に関し、争や誤信を招くような点はなかつたこと、控訴人は前記の如く売買の交渉はしたが其の話は出来なかつたことを知り乍らも、是非誠一の妻子等の為めに本件不動産の買戻をしようと考え、前記の如く被控訴人を相手方として仮処分の申請及本案訴訟を提起し、其の本案訴訟の請求原因として「昭和二十一年八月中旬被控訴人の代理人である山本正基は控訴人の代理人である上野秀雄に対し、本件不動産を一万五千円を以て、控訴人に売渡す契約を為したものであり、仮に右売買契約が成立しなかつたものとするも、所謂売買一方の予約が成立したのであるから、控訴人は茲に売買完結の意思表示を為し被控訴人に対し、金一万五千円と引換に本件不動産の引渡及売買による所有権移転登記手続の履行を求める」と主張したことを夫々認め得る、右の如く控訴人が誠一の妻子等の為めに本件不動産の買戻をしてやりたいと考えたことは、情として之を諒すべきものがあるが、売買の交渉をしても相手方が之に応じなかつたことが争う余地もなく明白であり、且之を知つているにも拘らず仮処分を以て本件不動産の処分を禁止し、訴を提起して前記の如く売買は成立したいという主張を構えて其の企図を実現しようとしたことは不当であり、公序良俗に反する訴権の濫用であつて、不法行為たることを免れず、之によつて被控訴人の蒙つた損害を賠償すべき義務があるものと謂はなければならぬ、そして訴を提起された相手方が、権利の防衛の為め応訴の必要上弁護士に訴訟代理を委任するのは通例であり、且己むを得ないものであるから弁護士に支払つた手数料、報酬等にして相当な範囲内の金額は相手方が違法に蒙らしめられた損害なりと謂うべきところ、被控訴人が前記本案の訴訟に応訴する為め、弁護士山田寛を第一、二審の訴訟代理人に委任したことは、当事者間争なく原審鑑定人浜田幹の鑑定の結果によれば右本案訴訟に於て弁護士に支払うべき訴訟代理手数料は金六千五百円、報酬は金三万円を相当とすることが認められ、且原審証人山田寛の証言によれば被控訴人は其の主張の如く右山田弁護士に手数料として金千六百円、報酬として金三万円を支払つたことが認められる、然らば被控訴人が控訴人に対し右手数料及報酬の合計額三万千六百円を不法行為による損害として、右金額及之に対する本件訴状送達の翌日なること記録上明かな昭和二十七年三月十九日以降、右完済に至る迄年五分の割合に依る遅延損害金の支払を求むる部分は正当であつて、之を認容した原判決は正当である、尤も原判決主文及理由に「昭和二十七年三月十八日以降右完済に至る迄年五分の割合に依る」とあるが右は「昭和二十七年三月十九日以降右完済に至る迄年五分の割合に依る」の誤記であることは明白である。
仍て本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三百八十四条第一項第九十五条第八十九条を適用し、主文の如く判決する。
(裁判官 中島奨 白木伸 県宏)